フィードフォワード制御波形分析の軽度認知障害(MCI)判定への応用・ユースケース

2021.12.20

労働力の高齢化に伴う社会課題

先進諸国では高齢化の進行と共に、認知症患者の増加が社会問題となっています。日本の場合、厚生労働省の見通しによると2025年までに高齢者(65歳以上)の約20%(約700万人)が認知症になるといわれている事をご存知でしょうか。

一方で少子化による人手不足を補うため、政府を挙げて70歳までの雇用継続を促すための法改正に取り組むなど労働者の高齢化は一段と進むことが予想されています。そうなると企業では、認知症による高齢者の事故など労災リスクを低減するために、高齢者が安心して働ける労働環境の整備が課題であり、対応が急務だと言えます。

この課題に対し、ACCESSのデータサイエンティストは金沢大学 医薬保健研究域保健学系の米田 貢准教授、菊池 ゆひ助教および融合研究域融合科学系の米田 隆教授の共同研究グループ(以下、米田研究グループ)と共同研究を行い、解決に向けたサービス企画・開発へ応用したユースケースを紹介します。

課題解決の糸口は認知症の早期発見

ACCESSのデータサイエンティストが金沢大学の米田先生と会話をしていく中で、先生がこのように仰られていました。

我々はリハビリテーションにおいて障害回復のために運動学習回路のメカニズムの解明に取り組んできました。この回路は、運動の制御だけでなく、ヒトの高次の認知機能に重要な役割を担うことがわかっています。我々は、認知症の予防には、まず自分や周囲の人がより早く認知機能の低下に気づき、予防的な取り組みを早い段階から行うことが重要と考えています。

我々は、この点を課題解決の糸口であり研究目的であると定め、データ分析を通して発見・検知できないか?を当面のテーマとしました。

認知症の早期発見には、MCI(軽度認知障害)の段階で予防・適切な治療をすることで回復もしくは発症を遅延させることが出来る場合があると言われていますが、MCIの段階では症状が軽いために、本人や周囲も気づきにくく、残念ながら見逃される傾向にあります。

MCIの兆候はフィードフォワード制御波形に現れる?

米田先生の調査によると、加齢や認知症が進行すると小脳のフィードフォワード制御が不得手になっていることが判明していました※1。小脳は運動の速さ、タイミング、必要な筋力などを計算し、運動を調節する機能を担っています。外からの刺激に対しすばやく、正確な反応が必要な動きでは、あらかじめタイミングや筋力を予測し、刺激に対する影響を小さくするように働きます。これをフィードフォワード制御といいます。このフィードフォワードの機構は運動の制御だけでなく、高次の認知機能にも重要な役割を担っています。

この制御波形データを観測し健常者のものと比較分析すれば、これまで見逃されてしまっていたMCI兆候を検知する事が可能ではないかという所に着目し、データ収集と分析を開始しました。

データ収集と分析方法

データ収集のため我々は「認知機能チェックアップアプリ」を独自開発・試作し、それをインストールしたスマートフォンを用意しました。対象者はそれを片手で持ち、その上に水の入ったペットボトルを置き、その際の手の上下の揺れをスマートフォン内蔵の加速度センサーで取得・データ化し収集しました。 収集されたデータはアプリを介してクラウド上で認知機能評価アルゴリズムにより抽出した特徴量を分析し、評価結果を手元のスマートフォン画面に表示するようにしました。

健常者と認知症患者の動きをデータ化し、AIで解析(イメージ画)

小脳のフィードフォワード制御を認知機能低下の早期発見に応用する研究は、世界で初めてとなります※2。また、小脳のフィードフォワード制御に着目し、スマートデバイスとデータ解析を組み合わせて、ペットボトル等の重りによる負荷課題を対象者に実施させ、人体の挙動データから認知に関わる脳機能を評価する仕組みは、日本初となります※3(特許出願中)。

サービスへの応用

今回紹介した仕組みにより、スマートフォンさえあれば、誰でも、いつでも、どこでも、手軽に自身の認知機能を確認することが出来るようになりました。今後も協力者から得た課題データを基に認知機能評価のアルゴリズムの精度向上を予定しています。また、本アルゴリズムを基にしたスマートフォン向け「認知機能チェックアップアプリ(仮称)」の開発を通して、社会課題の解決に向けた様々なサービスへの応用を進めていく計画です。

今回、特許出願したこの技術は、スマートフォンがあればいつでも、どこでも自分で手軽に行えます。認知機能の低下は必ずしも認知症になることを示すものではありませんが、歳をとっても健康で生活していくことに重要な機能と考えています。今後は予防、機能回復プログラムの開発の共同研究を精力的に進めていきます。

※1 弊社プレスリリースより。
※2 発表時点での米田研究グループの調べに基づく。
※3 発表時点でのACCESSの調べに基づく。

金沢大学 医薬保健研究域保健学系 米田研究グループについて

医薬保健研究域保健学系の米田 貢准教授は、2016年から現研究室を立ち上げ、『脳の柔軟性』の基礎研究と臨床研究の学際的な統合により、リハビリテーションに貢献できる技術の開発に取り組んでいます。

https://yoneda-lab.w3.kanazawa-u.ac.jp/

融合研究域融合科学系の米田 隆教授は、2018年から未来型健康増進医学教室を立ち上げ、「超高齢化社会」にあるわが国の医療福祉、経済などの社会問題に対して、ICT・AI(人工知能)技術等を活用した未来型医療・健康増進サービスの開発や先制医療による健康寿命延伸を目指し、異分野融合、多職種協働の下、メデイカルイノベーションを展開しています。

http://miraigata.w3.kanazawa-u.ac.jp/

執筆者:倉石

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